アップルが変貌しているのはiPhoneだけではない~決算書からみるアップル社の「成熟化」~

9月に米アップルは新しいスマートフォン「iPhone XS」と「iPhone XR」を発表しました。近年のスマートフォンは画面の大型化が進み、今回発表されたiPhoneの新製品群もその流れを汲んだ大型端末となりました。また、デザイン面でも、昨年発表された「iPhone X」のデザインを継承し、全面のほぼすべてが有機ELもしくは液晶画面となり、約10年間採用されていたホームボタンを搭載した製品は発表されませんでした。

このような画面の大型化やデザインの変貌を受けて、「ダサくなっている」、「値段が高い」、「ジョブズが生きていたらもっとスタイリッシュになっていた」といった声が毎年のように聞かれます。

現在のiPhoneがダサいのかどうかは個人の趣味にもよるので何とも言えませんが、ジョブズ亡き後、同社が大きく変貌していることは事実です。それはiPhoneなどのプロダクトだけでなく、同社の経営実態もまた然りです。創業から40年が過ぎ、革新的な製品やサービスを幾度も生み出してきた超巨大IT企業の成長期から成熟期への移行であると考えられます。同社の決算書から、その変貌は大きく3つあります。それは、①無借金経営からの転換、②配当の実施、③企業規模の巨大化の3点です。

社債を発行し、無借金経営から転換している。

ジョブズ氏が現役だった2011年まで、同社は無借金経営を標榜し、借入金や社債などの有利子負債は有していませんでした。しかし、2011年にジョブズ氏が亡くなると、カリスマを失った同社は成長が鈍化し、2013年には約10年ぶりの減益となりました。株主からの圧迫もあり、2013年には約170億ドルの社債発行を行って無借金経営からの転換を図りました。実際に貸借対照表を確認すると、約10年前の2009年9月期では総資産538億ドルで有利子負債はゼロ、すなわち無借金経営を行っていたのに対し、2017年9月期には総資産3,753億ドルで有利子負債は1,157億ドルにまで増加しています。

配当金を支払って株主への利益還元を行っている

また、同社は同時に、ジョブズ氏が現役だったころには行われていなかった配当を実施しました。2011年までは配当は全く行われておらず、稼ぎ出した利益は会社の成長のための再投資に用いられていました。しかし、2012年から成長が鈍化すると、株主からの要求に応える形で配当を実施しています。2017年には配当性向26.0%となっており、純利益の約4分の1を配当へと振り分けています。

総資産が10年前から約7倍に増加している。

そして3点目に注目するところは、同社が、ジョブズ氏が現役だった時代と現在とでは比べ物にならないほど巨大化しているということです。2009年9月期の貸借対照表では、総資産が538億ドル、自己資本は279億ドルであったのに対し、2017年9月期では総資産3753億ドル、自己資本は1,340億ドルにまで増加しており、総資産ベースで約7倍、純資産ベースで約5倍にまで膨れ上がっています。従業員数も2009年9月期の約34,300人から、2017年9月期には約123,000人と約4倍に増加しています。財務面、人事面でも米国企業有数の大企業となっていることがわかります。

アップルは「成熟企業」である

上記3点について、ジョブズ氏がいた時と現在とではアップルの状況は大きく変わっていることを述べました。10年前までのアップルは借金をせずに自社で稼いだ利益を配当に回さずに自社内で再投資するという財務方針を進めていました。そこから生み出される革新的な製品やサービスで市場は歓喜し、株主も評価してきました。しかし、ジョブズ氏が亡くなり、カリスマを失ってからは革新的な製品を生み出すことではなく、大企業としてまっとうな市場での振る舞いをしてきていると考えられます。有利子負債の割合を増やすことでROE(自己資本利益率)を高めることや、配当を実施して株主に直接金銭的な利益を与えるといった行動は、その表れであるといえるでしょう。それは、10年前までの成長企業としての振る舞いから、成熟企業としての行動であると考えられます。今年発表されたiPhoneは、かつてのように熱狂的に迎えられることはありませんが、その完成度は10年前に比べて大幅に向上しています。創業から40年がたち、「Stay hungry」に成長し続けて来た同社は「不惑の四十」として変貌しているといえるのではないでしょうか。

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